10、視覚障害者の誘導と介助(1)外出時の心構え視覚障害者を誘導する際にもっとも大切なことは「安全を絶対に守る」ということです。 晴眼者が特に気をつけないで道路や建物の中を歩く時には何でもないように思っていても、視覚障害者にとっては、至る所に危険な障害があります。 たとえば、道路がでこぼこになっていたり、自転車や商品が、黄色の点字ブロック上に置かれていたり、顔の高さに看板や標識がでっぱっていたり、歩道と車道の区別がわからなかったり、突然、階段があったり…例を挙げれば切りがありません。 視覚障害者とともに歩く際には、その辺について、十分注意するようにしてください。 また、いっしょに歩く際には、周りの景色や人々の様子、どのような建物やお店があるかなども、必要に応じて説明するようにしてください。 目的地や予定の時刻を確認した上で、もっとも安全な道順を選び、できるだけ間には余裕を持つようにしましょう。 映画や演劇、コンサートなどをいっしょに観賞する時には、周囲の人の迷惑にならないように気をつけながら、聞いているだけではわからないような場面、動作や様子などを説明するようにしてください。どの程度にするかは、視覚障害者と相談して決めてください。 いっしょに買い物に出かけた際には、まずどのような物がほしいのかをよく聞いた上で、その目的に合ったお店や売場を選ぶようにします。 お店に着いたら、品物を手にとってさわれる物はできるだけさわらせるようにしてください。どうしてもふれられない物については、どのような物であるかをよく説明してください。 「あなたにはこの洋服がお似合いよ」「こちらの食品の方がおいしそうよ」などと介助者の方で勝手に判断しないよう気をつけましょう。 (2)白杖について道路交通法第14条には、「目が見えない者、目が見えない者に準ずる者は、道路を通行する時は、政令で定める杖を携え、または、政令で定める盲導犬を連れていなければならない」また、第71条では、「運転手は、目が見えない者が、杖を携え、もしくは盲導犬を連れて通行している時は、一時停止、または徐行して、その通行、または歩行を妨げないようにすること」と規定しています。 政令で定める杖は、「白色または黄色の杖とする」(施行令第8条)と決められており、視覚障害者が道路を歩く時には、白い杖を携帯することが義務づけられています。 従って、視覚障害者が道路を歩く時、白い杖を持っていなくて事故にあったら、大変不利益になります。ですから、一人で歩く時はもちろん、介助者といっしょに歩く場合でも、必ず白い杖を持つようにしましょう。 白い杖は、視覚障害者が歩行する時に安全を確かめ、足下の状況を確認するための物であると同時に、周囲の人々に、視覚障害者であることを知らせる物でもあります。 その使い方は、歩行訓練士が専門的に研究し、歩行訓練の中で指導しています。 そうした訓練を受けたい場合には、視覚障害者のための生活訓練施設に入所(または通所)するか、県の方で行っている訪問自立支援事業を利用することができます。 詳しくはお住まいの市や町の福祉課か、静岡県視覚障害支援センターまでご相談ください。 参考URL 静岡県視覚障害支援センター http://shizuten.jp/contents/shien.html (3) 視覚障害者の誘導の基本形以下に述べる介助の方法はあくまでも基本です。自分なりの方法を持っている視覚障害者もおりますので、危険がない限りは相手の要望に合わせるようにして下さい。 足腰の弱い人やバランスの悪い人を介助する場合は、基本の形ではなく、相手の体を支えるような工夫が必要になるかも知れません。 また、それとは逆に、あまり手を出し過ぎるとかえってお節介に感じる人もいるかも知れませんので、相手に合わせた臨機応変な対応が出来るよう心がけて下さい。 @介助者は視覚障害者の左斜め前(視覚障害者は普通右手に白杖を持っていることが多いので、その反対側)に立ちます。ただし、歩道と車道の区別がない道路や、駅のプラットホームの線路側など危険がある所は、手引きの人が必ず車道側、線路側を歩くようにします。 そして自分の右腕の肘のあたりを、視覚障害者の左手の親指とその他の4本の指で挟むように、軽く握らせます。 A一方、視覚障害者は、肘を直角に曲げ、脇を締めて、介助者の半歩後ろを歩くようにします。そうすることによって、介助者が急に停止しても、障害物に衝突したり、足を踏み外したりしにくくなります。 Bお互いの背丈が極端に違う場合の歩き方としては、介助者の背が高すぎたり視覚障害者の背が低すぎたりする場合には、介助者の手首の上から前腕の半ばあたりを視覚障害者に握らせるようにします。 また、それとは反対に、介助者の背が低すぎたり視覚障害者の背が高すぎたりする場合には、介助者の肩の上に視覚障害者の手を乗せるようにして歩きます。 C一般的な注意事項としては、介助者が腕を振ったり、肘に力が入り過ぎて緊張していたりすると、視覚障害者に介助者の動きが伝わりにくくなって、非常に歩きにくくなります。 また脇を広げて肘が伸び過ぎると、他の歩行者の邪魔になったり、視覚障害者を障害物にぶつけてしまう恐れがありますので、二人分の最小限の幅で歩けるよう心がけて下さい。 D絶対にしてはならない事としては、介助者が後ろから視覚障害者の両肩を押しながら、自分の前を歩かせること、介助者が向かい合わせで視覚障害者の両手をつかんで、前から引っ張ること、介助者が視覚障害者を抱え込むようにして歩くこと、介助者が視覚障害者の白杖の先を自分の脇腹に挟んで、そのまま歩き始めることなどです。 これらはどれも、視覚障害者にとっては、とても怖いこと、大変に危険なことですので、絶対にしないで下さい。 (4)狭い所を通る時の歩き方@一人しか通過出来ないような狭い所へ来た時には、介助者は狭くなることを相手に伝え、手引きをしている手を後ろに回します。 その動きにつられて、視覚障害者は自然と介助者の後ろに回り込む形になり、縦一列に並びます。 この時、介助者は体が常に進行方向に向くように心がけて下さい。あまり後ろを気にし過ぎて上半身を捻ると、視覚障害者の向きが変わり、体をぶつけてしまうことがありますので注意して下さい。 A介助者は、狭い場所を通過する間は、歩調を落として下さい。歩調が早過ぎると、視覚障害者が前につんのめったり、また介助者が踵を踏まれてしまう恐れがあります。通過し終えたら、介助者は腕を元の位置へ戻し、基本の形に戻ります。 Bこのように、狭い所の通過は、確実に縦一列に並ぶことが重要です。 また映画館の座席などのように、一人分の幅でも狭くて通れないような時には横一列になり、カニ歩きで移動することもあります。 (5)階段とエスカレーターについて@視覚障害者にとって、階段(特に下り)は慣れないととても怖いものです。 階段の手前では一旦停止して、それが上りか下りであるかを必ず伝えるようにして下さい。 A手すりのある階段では、相手がそれにつかまりたいような場合は、介助者は空いている方の手で視覚障害者の左手を持って、手すりにつかまらせるようにします。その必要がない場合には、《狭い所を通る時》で説明した要領で縦一列になり、そのまま移動します。いずれの場合も、介助者は視覚障害者の一、二段前を歩くことになります。 B階段の終わりに近づいたら、「もうすぐ階段が終わりになります」と声をかけます。よく「はい、あと三段、二段、一段」などと声をかける人もいますが、これだと段数を間違えたり、かえって紛らわしいのでその必要はありません。 階段が終わったら、介助者は一旦止まって両足を揃え、視覚障害者が上り(下り)終わるのを待ちます。 エスカレーターは、上りも下りも、必ず視覚障害者の手をベルトにふれさせてください。上りのエスカレーターで二人が並んで乗れない場合は、視覚障害者を先に乗せて、片手をベルトにふれさせ、後ろから注意していて、終わりになる直前で「終わりですよ」などと声を掛けてください。 あるいは、介助者の肘を持った状態で、視覚障害者が介助者の後ろに付いて、縦一列になり、そのまま乗ることもあります。その辺は事前に相手の視覚障害者とよく相談するようにしてください。 下りでは介助者が先に立ってエスカレーターに乗り、視覚障害者が誤ってエスカレーターから転落しないように配慮します。 (6)電車やバスの乗降についてプラットホームから電車に乗る時に最も注意しなければならないことは、プラットホームと電車との間が大きく開いていたり、電車の入り口が高くなっている場合です。電車に乗る時には、視覚障害者の手を電車のドアの部分の外壁にふれさせてください。そうすると電車とプラットホームとの間隔を知ることができるからです。間隔が広い場合には、「間が広いから気をつけてください」などと声を掛けます。 二人で並んで乗り込める時は、いっしょに乗ってもいいのですが、混雑していたり、入り口が狭い場合は、手引きの人が先に乗ります。その時は、視覚障害者が手引きの人の腕から手を離さないように、しっかりつかまるようにさせます。 電車から降りる時も、乗る時と同じですが、プラットホームとの間隔が広い場合や、段差が大きい場合には、視覚障害者が白い杖でプラットホームを確かめることが大切ですし、手引きの人が先に降りて、言葉を掛けることが必要です。 バスの乗降については、電車の場合とほぼ同じですので、それを参考にしてください。 電車やバスに乗って座席が空いていない時は、視覚障害者の手を手すりの棒やつり革にふれさせてください。なお、視覚障害者と離れた所に座席があった場合は、「向こうに席が空いたので」などと一声掛けてから移動するようにしてください。黙って視覚障害者から離れないようにしましょう。 (7)会合や会食時の注意点視覚障害者とともに会合や会食に参加した際には、次のようなことに心がけてください。まず、会場に入ったら中の様子(テーブルの配置や座席の数、舞台の位置や、来席の方向など)を説明し、視覚障害者を席に案内します。 座席に着く場合、椅子の時は椅子の背もたれに手をふれさせてください。和室の場合は、座布団の位置を手で教え、座る向きを知らせてください。 席に着いたら、会議資料や掲示物を読むなど、視覚障害者の要望に合わせた手助けをしてください。視覚障害者の着いた席が全体の中でどの位置なのかも説明しましょう。 会合に出席して視覚障害者が困るのは、どちらが正面なのか、今話している人はどの位置にいるのか、などがわからないことです。マイクを使うと、どこで話していても、その声はスピーカーから聞こえるので、顔をどの方向に向けたらよいのかがわからずに大変困ります。 また、合図がなくて立ったり座ったりする時に気が付かないことがあるので、「皆さん立ちました」などと小さく声を掛けてください。 テーブルの上に、お茶やお菓子、灰皿などが出ている場合には、手をとって教えてあげて下さい。テーブルの上の物を動かしたり、お茶を継ぎ足したりする時には、必ず相手に一声かけてからおこなうようにして下さい。 置かれた物の位置を、時計の文字盤の方向になぞらえて説明することも、会食の際などによくおこなわれています。 正面が12時、手前が6時、左が9時、右が3時、そしてその間に1時、2時、左斜め上が11時などとします。これをクロックポジションと言います。「12時に焼き魚、2時にお刺身、7時にご飯、5時におつゆ」などと説明します。 料理の内容を説明し、視覚障害者に聞いて、必要があれば手を貸します。 中央に置かれた大皿料理や鍋物などは自分で取ることが難しいので、「どんな物を取りますか」などと聞いて、視覚障害者の器に取り分けてください。 立食パーティの場合は、どんな料理が出ているか説明して、視覚障害者が望む物を取ります。その際には、「お任せします」などと言われない限り、「食べにくいだろう」などと自分の判断で選ぶようなことをしないように気をつけましょう。 (8)浴場やトイレットの案内視覚障害者と同性ならば、どこへでもいっしょに行けるのですが、異性の場合に困るのは、浴場とトイレットです。 入り口から中の状態を見て説明し、視覚障害者が一人で入るようにさせます。それがどうしても無理なような場合には、そこにいる人の協力をお願いすることにしましょう。 中にも周囲にも人がいなくて、やむを得ない時には、中に入って案内してもかまいません。同性の場合には、中に入って便器や手洗いの位置などを説明してください。 浴場では、浴槽や洗い場、桶や石鹸の位置などをよく説明してください。 また、脱衣場では、なるべくわかりやすい位置に籠を置いたり、一番端の棚を選ぶことにします。 引用文献 『平成18年度 盲ろう者向け通訳介助者養成講座テキスト』 静岡県聴覚障害者情報センター 発行 2006年、他 『視覚障害者の介護技術(改訂新版)−介護福祉士のために−』 監修・直居鉄 発行・YNT企画 2002/11/22 ライター 菊池 一郎 ご意見、ご質問などございましたら、メールでこちらまでお寄せください。 公益社団法人静岡県視覚障害者協会 E-mail: info@shizuoka-kenshikyo.org ※ @は半角に置き換えて下さい 電話/FAX: 054-251-8090 Copyright since2004 (公社)静岡県視覚障害者協会. |