8、視覚障害者の職業




(1)視覚障害者と三療


平成18年度身体障害児・者実体調査によれば、視覚障害者の就業者数は81,000人、その内の24,000人(29.4%)が、三療(按摩・マッサージ・指圧、鍼、灸の総称)に従事しています。
按摩、鍼、灸は、古代中国で発達した漢方医学による物理療法で、6世紀に仏教とともに日本へ伝来しました。それ以来、我が国の医療の中で保健や病気の治療に効果をあげて、国民に親しまれてきました。
従来それは視覚障害者とは関係のあるものではありませんでしたが、江戸時代に入ると、全盲の杉山和一(1610〜94年)が、優れた才能と努力によって、鍼の施術法の一つである「管鍼法」を考案しました。
また、按摩技術の習得を主眼とした、世界初の視覚障害者教育施設とされる「杉山流鍼治導引稽古所」を、開設し、それ以後は視覚障害者の専業といわれるほどに、多数の人が三療によって生計を立てるようになりました。
これは世界にも例のないことで、明治時代に入り、西洋式の医療制度が導入され民間療法になってからも、盲学校の職業教育に取り入れられて、今日に至っています。

しかし、近年では、この分野への晴眼者の進出が著しく、三療業全体に占める視覚障害者の割合は減少傾向にあります。
按摩・マッサージ・指圧師の場合、1960年代までは6割を越えていましたが、1970年で55.9%となり、1980年に、5割を、1990年に4割を、2000年で3割を割込みました。
平成18年末の保健衛生行政業務報告によれば、按摩・マッサージ・指圧師25.2%、鍼師18.4%、灸師17.9%となっています。
三療の資格は、盲学校の理療科などで3年間、専門の知識や技術を学び、国家試験に合格した者に与えられます。
視覚障害者の多くは鍼灸、マッサージの治療院を開業したり、整形外科の病院や診療所に勤務するなどして働いてきました。
最近では、企業の職員になって従業員の疲労回復や、疾病の治療を行う「ヘルスキーパー」や、また、老人ホームなどに雇用されて、高齢者に対して鍼灸、マッサージを施したり、介護保険を使っての往診治療なども注目されています。

なお、我が国最初の盲学校は、1878(明治11)年に設立された現在の京都府立盲学校で、その2年後に、現在の筑波大学附属視覚特別支援学校が東京で授業を始めました。
学校教育法第74条によって都道府県には必ず盲学校が一校以上存在します。現在は、国立1校、公立69校(分校2校を含む)(ただし、高田分校と舞鶴分校は、平成23年度を持って休校)、私立2校の合計72校があります。

参考URL
盲学校一覧
http://www.tenji.ne.jp/cgi-bin/mou_list.cgi

静岡県内には、静岡県立浜松視覚特別支援学校と静岡県立静岡視覚特別支援学校と静岡県立沼津視覚特別支援学校の3校があります。
浜松には高等部専攻科理療科(按摩・マッサージ・指圧師、鍼師、灸師の免許取得することができる)と、静岡と沼津に高等部保健理療科(按摩・マッサージ・指圧師の免許のみを取得することができる)が、それぞれ設置されています。
また、視覚障害者と聴覚障害者のための、我が国で唯一の四年制大学として、筑波技術大学があります。視覚障害学生に対しては、平成3年度から、鍼灸、理学療法、情報処理の3学科が開校されました。

なお、静岡市内には、静岡医療福祉センター内に視覚障害者のための施設として、ライトホームがあり、三療従業者の技術研修と、自立に必要な日常生活訓練を行っています。

ライトホーム|【静岡医療福祉センター
http://www.sizuoka-iryofukusi.jp/light.html

(2)その他の職業について


三療以外の伝統的な職業には、邦楽家(琴・三味線など)があります。しかしこれも最近、視覚障害の従事者が減少してきました。その反面、ピアノやヴァイオリンをはじめ、幅広い音楽の分野で優れた才能を発揮して活躍する視覚障害者が現れ、世界的に注目を集める演奏家もいます。
その他の専門的な職業訓練の職種としては、コンピュータプログラマー、電話交換手、機械工、録音タイピスト、ピアノ調律師などがあります。この中で、これまでの就職者がもっとも多いのは電話交換手で、80名以上が雇用されていましたが、企業のダイヤルイン化(直通番号割り当て)によって、その数は、減少傾向にあります。
また、コンピュータプログラマーや機械工、ピアノ調律師も、かつては視覚障害者の新職業として注目を浴びていましたが、コンピュータ画面のグラフィック化や産業構造の変化、、楽器業界の不振などによって、それらの就労もかなり厳しいものになっています。
これらの職種以外で従事者の多いのは、盲学校の理療科教員です。それより数は少なくなりますが、盲学校の普通科や、一般の中学校・高等学校の教員、また、国公立の大学・短期大学で専任教員、あるいは非常勤として教鞭を執る人もいます。
視覚障害福祉関係施設の経営やそこでの職員、会社の経営や社員、宗教家、農業なども、就業者は決して多くはないものの、視覚障害者が従事している職種です。
1973年からは司法試験で点字受験が認められるようになり、これまでに3人の点字使用の視覚障害者がこれに合格し、弁護士として活躍しています。
国や自治体の公務員採用試験では、1973年に東京都が行政職で点字受験を全国に先駆けて実施したのを皮切りに、神奈川県・大阪府・京都府などと広がって行き、各自治体で合格者もみられるようになりました。
一方、国家公務員行政職試験での点字受験は、長年の要求運動の結果、1991年から実施されるようになりました。これまでに毎年数人ずつの受験者があり、1996年には第二種試験で初めて合格者が出ました。

人生の途中で視覚障害になっても、できるだけ受障前に従事していた職業を継続できるようにすることが望ましく、そのためには、適切なリハビリテーション訓練、本人の努力、周囲の人たちの理解と協力が必要です。
これらの結果によって、復職を果たすケースが年々みられるようになりました。特に視覚障害者には難しいとされてきた普通文字の読み書きが、スクリーンリーダーの開発とイメージスキャナを用いての朗読システムの普及によっておおむね解決されつつある現在、視覚障害は、職務遂行上、決定的な障害とはなりません。
そうした中途視覚障害者の職場復帰を支援するための団体として、NPO法人タートルが1995年6月に設立されて、その役割を果たしています。

NPO法人タートル
http://www.turtle.gr.jp/


引用文献
『視覚障害者の介護技術(改訂新版)−介護福祉士のために−』
監修・直居鉄
発行・YNT企画 2002/11/22

                      ライター  菊池 一郎

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